磯浜海防陣屋跡の歴史

1.歴史

江戸時代後期から幕末期にかけての時期は、異国船が頻繁に沿岸に接近し、中には上陸して乱暴を働く事件が発生しており、その出没に対する危機感が強まっていました。特に水戸藩では、攘夷思想を強く抱いた9代藩主の徳川斉昭が藩主に就任した天保年間になると、海防に対する積極的な対応策が講じられるようになり、北茨城市~大洗町間の藩内沿海の地に、海防陣屋や台場などの複数の海防施設が築造されます。磯浜海防陣屋は、そのような沿岸領地の最南端に位置し、水戸城にも通じる磯浜村や大貫村を防御するために建設されました。磯浜海防陣屋には藩士が詰め、沿岸に接近する異国船や上陸しようとする異人を監視し、いざという時に砲撃できる武備を備えていました。

国立歴史民俗博物館所蔵『水戸天狗党絵巻』より磯浜海防陣屋を描いた場面

 

磯浜古墳群中、日下ヶ塚古墳と重複する台地南縁一帯が該当していて、古墳とは主軸の異なる遺構が残存しています。この高台に登ると、磯浜町市街地から大貫町の市街地を介して鹿島灘沿岸を一望にでき、正に異船を監視するために好適地が選択されています。本陣屋は、慶応年間に製作された国立歴史民俗博物館所蔵の『水戸天狗党絵巻』にみるように、「磯之濱御臺場」とも表記され、現在も古老を中心に通称として「おでぃば山」「おだいば山」とも呼ばれているのは、この名残とみられます。

望洋館跡・磯浜海防陣屋跡

1-1.第Ⅰ期(文政8年~天保7年)

文政8(1825)年、幕府によって出された異国船打払令に呼応して、水戸藩により異船を監視するための遠見番所が、領内沿岸の川尻(日立市)・河原子 (日立市)・磯浜の3か所に設置されました。この中で、磯浜の遠見番所は、別名望洋館とも呼ばれました。

郷士である小泉伝三郎が海防差引役を務め、後に須藤弥十郎・後藤友右衛門・桜井彦十郎ら郷士も加わり、配下には海防農兵(郷足軽)数十人を配属し、武器類も配備されました。

1-2.第II期(天保7年~天保13年)

天保7(1836)年、水戸藩主徳川斉昭は、藩士を沿岸に土着させる海防体制の充実を図ります。具体的には、水戸藩家老の山野邊義観を沿岸北方の助川館に移住させ、日立市域の友部や大沼に海防陣屋を建設しました。また湊村の和田には、那珂川河口の防御を意図した異船を砲撃する軍事施設である和田台場を築造しました。

磯浜でも、それまでの郷士・郷足軽が解任され、藩士である大関恒衛門が海防指引役に任命され、その配下には先手同心組が配属されました。天保10(1839)年には、車仕掛の五百匁玉御筒3挺と1挺あたり10発、計30発の弾薬の配備が計画されています。

1-3.第III期(天保13年~元治元年)

海防指引役を廃止し、先手物頭が配属されるようになり、友部や大沼と同様の海防体制が整います。実際に天保13(1842)年11月までには、先手物頭1人、先手同心20人、与力2人、足軽10人の人員と共に、大砲3挺が配備されました。元治元(1864)年までの約22年間の間に、三木孫大夫・岡野庄五郎・谷佐之衛門・鈴木荘蔵らが先手物頭として派遣されています。『水戸天狗党絵巻』は、元治元年の元治甲子の変(所謂、天狗諸生の戦)により戦場と化した時の様子を描いた絵巻ですが、表現されている海防陣屋の建物は戦火によって焼失してしまいます。

2.遺構

範囲内は、南北に並ぶ日下ヶ塚古墳の墳丘とⅢ土壇状遺構(東西約36m×南北約24m、高さ約1.5~2.8m)を最高所とし、西方の土塁状遺構・区画溝で区画されるⅡ・Ⅳから、Ⅴへ向けて3段に下降する構造を持っています。その広がりは東西約110mであり、北西側から全景を描いた『水戸天狗党絵巻』と同様の構造を確認することができます。古墳の前方部三方、及び後円部南方が削られていますが、明治前期の迅速測図にはすでに表現されており、江戸後期の海防陣屋の築造に伴い削平された姿を残していると考えることができます。海防陣屋の範囲では、近代以降の改変をほとんど受けることなく、上記のような近世遺構が遺存しているものとみられます。

3.遺物

古墳前方部から土壇状遺構にかけて、18世紀第二四半期以降に生産流通した軒桟瓦・桟瓦・軒丸瓦・丸瓦・平瓦の破片を表面採集することができます。また、平成24年度に実施した日下ヶ塚古墳の範囲確認調査により、Ⅰの範囲に設定した第2・10号トレンチ内からは、道路状遺構1条・溝跡2条・整地遺構の遺構の他、陶磁器・土器・瓦片・銅製煙管のほか、3~6匁ほどの鉛製弾丸などの江戸時代の遺物が集中する層位があり、望洋館時代から磯浜海防陣屋時代に伴う遺構・遺物の可能性が考えられます。

磯浜海防陣屋跡出土瓦(出典:『郷土文化第45号』)

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〒311-1301 茨城県東茨城郡大洗町磯浜町6881-88
大洗町教育委員会生涯学習課(文化財係)
Tel:029-267-0230 Fax:029-267-1051
E-mail:syougai@town.oarai.lg.jp

 

令和6年2月15日掲載

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